カンボジア不動産の保証利回り(GRR・GBB)のリスクについて
カンボジアの不動産には、「保証利回り」という仕組みがあります。デベロッパーが一定期間、年6〜10%の賃料を保証する。さらに数年後には、元本での買い取りまで約束する。こうした条件を前面に出した物件が、長く販売されてきました。しかし、この仕組みがいま揺らいでいます。保証賃料の支払いが止まったという投資家の報告が出ています。同時に、一部の銀行では預金の凍結が長引いています。つまり、不動産と金融が同時に軋んでいる状態です。そこで本記事では、2つの論点を整理します。保証利回りとは実際のところ何なのか。そして、日本の投資家は何を確認すべきなのかです。

先に押さえたい3つの結論
まず、直近の動きから導ける結論を3点にまとめます。
- 保証利回り(GRR)や買取保証(GBB)は、販売条件の一部である。安全装置ではない
- 市場の減速と銀行の不良債権増加により、デベロッパーと金融機関の体力差がはっきりしてきた
- 外国人投資家が見るべきは、利回りの高さではない。相手の信用力と、出口の設計だ
以下では、なぜこの結論になるのかを、順を追って見ていきます。
背景:市場の減速と不良債権の拡大
まず、市場全体の状況を確認します。世界銀行などのレポートによれば、2024年から2026年にかけて、カンボジアの不動産市場は調整局面にあります。住宅価格指数は下落し、建設・不動産向けの融資も鈍化しました。その結果、2025年時点で銀行の不良債権(NPL)比率は8%前後まで上昇したと報告されています。
証券会社の調査でも、同じ方向の指摘が出ています。住宅価格の下落、建設向け新規融資の減少、一部案件の販売停滞。いずれも「長引く不動産不況」を示す材料です。
■ 供給過多が生んだ「保証利回り」という商品
プノンペンのコンドミニアム市場は、2010年代後半から供給過多と販売低迷を抱えてきました。そこで多くのプロジェクトが打ち出したのが、次のような条件です。
- 一定期間、年6〜10%の保証利回り(GRR)を支払う
- 数年後に、元本または元本+α(110%など)で買い取る買取保証(GBB)を約束する
ただし、現地の専門家からは構造的な問題も指摘されています。実際の市場賃料より高い利回りを約束していること。その差額分が販売価格に上乗せされていること。そして、販売が進まなければデベロッパーのキャッシュフローが破綻しやすいことです。
事例1:支払いが止まった保証賃料
海外の投資家コミュニティで注目を集めたのが、プノンペン中心部の複合開発案件をめぐる報告です。ある投資家は2018年ごろ、約14万ドルでユニットを購入しました。契約の内容は、年7〜8%の保証利回りと、10年後に元本で買い取る保証です。
ところが2022年初めごろから、保証賃料の支払いが止まりました。デベロッパー側は、パンデミックや銀行の問題を理由に説明したとされています。そのうえで、次のような条件変更を提示しました。
- 保証利回りを、ホテルの稼働率に連動した利益シェアへ変更する
- 買取時期を、当初の10年後からさらに数年先(2031年ごろ)へ延長する
結果として、この投資家は元本の回収さえ見通せない状況に陥ったと訴えています。
■ この事例が示す保証利回りの本質
この事例は、保証利回りの本質を端的に示しています。整理すると、次の3点です。
- 保証利回りは、実質的に資金調達コストである。デベロッパーは銀行ではなく、投資家から高い金利で資金を借りているのと同じ構図だ
- 市況が悪化したとき、最初に犠牲になるのが保証部分だ。実際の賃料収入が約束の利回りを下回れば、差額はデベロッパーの持ち出しになる。現金が尽きれば、保証は事実上止まる
- 契約があっても、執行は別の問題だ。外国人が契約違反を法的に追及し、実際に回収するまでには時間とコストがかかる
つまり、高い保証利回りとは、高いリスクに対する見返りです。無条件の安全装置ではありません。
事例2:銀行セクターにも及ぶストレス
リスクはデベロッパーだけの話ではありません。銀行にも及んでいます。現地メディアの報道によれば、2026年3月、中堅銀行のAPD Bankが5日間にわたって預金や送金などのサービスを全面停止しました。同行は「システムメンテナンス」と説明しています。しかし専門家からは、実際には清算や処理の手続きに入っているのではないか、との見方も出ました。
その後も、2026年8月時点で定期預金が凍結されたままだとする個人投資家の声が複数報告されています。「2年後に全額返す」と説明されているものの、回収を疑問視する向きもあります。
■ 銀行のストレスは不動産に波及する
この件自体は不動産専業の話ではありません。ただし、銀行セクターのストレスは不動産市場に直接跳ね返ります。経路は次の3つです。
- 銀行が保守的になり、不動産開発向けの融資を絞る
- その結果、デベロッパーは銀行ではなく、保証利回り付きの資金調達に依存しやすくなる
- 金融機関の問題が広がれば、預金者と投資家の信頼が下がる。取引が縮小し、不動産需要も減速するという悪循環が起こり得る
したがって、「高利回りの不動産投資」と「高金利のローカル銀行預金」を同時に持つ形は、いまのカンボジアでは慎重に考えるべき組み合わせといえます。
保証利回り案件を見るときの7つの確認点
では、実際に検討するとき、何を確認すればよいのでしょうか。7点に整理します。
■ 相手と数字を見る
- デベロッパーの過去と財務を最優先で見る:これまで何棟を完工させたか。遅延やトラブルはなかったか。可能であれば、完成済み物件の品質を現地で自分の目で確かめたい
- 保証利回りの原資を数字で考える:周辺の実勢賃料と比べて、その利回りは現実的か。市場実勢が5%なのに8〜10%を保証するなら、その差額はどこから出るのか。販売価格が相場より高く設定されていないかもあわせて確認する
- 買取保証(GBB)を出口として検証する:買取価格は元本か、元本+αか。買取を請求できるのは投資家側の権利か、それともデベロッパーの裁量か。延期条項や、破綻時の取り扱いはどうなっているか
■ お金の流れと預け先を分ける
- 法的リスクとエスクローの有無を確認する:購入代金を直接デベロッパーに送金するのか、銀行のエスクロー口座を使うのか。契約書は英語とクメール語の二言語で用意されているか。現地の弁護士による契約レビューを入れているか
- 金融機関の信用リスクを分散する:ローカル銀行の定期預金に資金を集中させない。口座は複数に分ける。異常に高い金利を提示する先は、事業モデルと監督状況を必ず確認する
カンボジアの法制度は整備が進んでいます。ただし、契約の執行力や裁判のスピードには、先進国とのギャップが残ります。専門家のセカンドオピニオンは、コストではなく保険と考えるべきです。
■ 全体のバランスを設計する
- 為替と円建て資産のバランスを見る:カンボジアの不動産投資は通常、米ドル建てだ。利回りが良く見えても、ドル円の変動で円ベースの収益は大きく変わる。出口の時点でドル安・円高であれば、為替差損が利回りを打ち消すこともある
- 現地でお金を生むビジネスと組み合わせる:サービスアパートの運営、現地法人によるオフィス・店舗の賃貸、本業と組み合わせた拠点整備など。自分でキャッシュフローを作れれば、保証利回りに依存せずに回収する道が開ける
まとめ
- 高い保証利回りは、多くの場合、販売価格への上乗せで賄われている。預金のような安全資産ではない
- 市況が悪化すれば、約束の履行よりもデベロッパー自身の生存が優先される。条件変更や支払い停止は現実に起きている
- 不良債権の増加や預金凍結など、ストレスは銀行セクターにも及んでいる。不動産と金融の両方で同時にリスクを取る形は避けたい
保証利回りそのものが悪いわけではありません。リスクに見合った見返りとして理解すれば、選択肢の1つにはなります。——ただし、その前提は「誰と組むか」「どう出口を取るか」「どこまでリスクを許容するか」を先に決めておくことです。実際、今回の事例で問題になったのは利回りの水準ではありません。支払いが止まったあとに、投資家側が取れる手段が残っていなかったことです。したがって、保証利回り付きの案件はポートフォリオの中心ではなく、一部として位置づける。この距離の取り方が、いまの市場では現実的といえるでしょう。
(参考:World Bank『Cambodia Economic Update』、Cambodia Investment Review、DaBest Properties、IPS Cambodia)
