2026年後半-価格調整下で進む物件選別と詐欺対策
カンボジア不動産市場は、転換期を迎えています。
市場全体の値上がりに期待する局面から、物件ごとの価値を見極める局面へ移りつつあります。
住宅価格はなお調整が続いています。一方、低層住宅やインフラ沿線では、底堅い動きもみられます。また、政府は、オンライン詐欺への対策も強めています。今後は立地だけでなく、権利関係や資金の透明性も問われるでしょう。本記事では、2026年後半の投資判断に必要なポイントを整理します。

なぜ今、物件の選別が進んでいるのか
カンボジア不動産市場は、量より質を問われる段階に入りました。2026年7月に公表された市場レポートも、価格調整が続いていることを示しています。
2026年1月の住宅価格指数は、全国で前年同月比3.67%下落しました。プノンペンでは、同4.52%の下落となっています。
一方、ボレイなどの低層住宅は比較的活発です。高級コンドミニアムの一部にも、回復の兆しがあります。市場全体が同じ方向へ動いているわけではありません。
■ 底堅さがみられる低層住宅
比較的底堅いのは、実需に支えられた低層住宅です。市場レポートでは、次のような点が挙げられています。
- ボレイの取引が比較的活発である
- 中間所得層の拡大が住宅需要を支えている
- 住宅金融へのアクセスが改善している
- 産業・物流分野が周辺需要を支えている
ボレイとは、戸建てやタウンハウスを中心とした住宅団地です。自宅用や長期居住用の需要が、取引を支えています。
■ インフラ沿線への期待と注意点
テチョ国際空港や第3環状道路の整備は、都市の拡大を後押ししています。プノンペン南部や周辺地域も、その影響を受けています。
ただし、インフラ整備が値上がりを保証するわけではありません。計画の進捗や、周辺の実需を確認する必要があります。将来への期待が、すでに価格へ織り込まれている場合もあります。
物件は、周辺産業とのつながりも含めて評価しましょう。道路や空港からの距離に加え、工業団地や物流拠点との関係も重要です。
■ ドル建てでも為替リスクは残る
カンボジアでは、米ドルによる不動産取引が一般的です。そのため、現地通貨リエルの変動による影響は限られる場合があります。
ただし、日本の投資家にはドル/円の為替リスクが残ります。ドル建てであることを、通貨リスクがないことと同一視してはいけません。円換算した収益も試算しておきましょう。
■ 物件ごとの差が大きいコンドミニアム
コンドミニアム市場には、供給過剰の影響が残っています。とくに供給量の多い高級物件では、厳しい状況が続く可能性があります。
ただし、すべての物件が低迷しているわけではありません。利便性が高く、管理の行き届いた物件には、一定の賃貸需要があります。
● エリア名だけで判断しない
代表的な検討エリアには、BKK1やトゥールコークがあります。どちらも生活利便性の高い地域です。
しかし、エリア名だけで投資価値は決まりません。同じ地域でも、立地や管理状態には大きな差があります。周辺環境や間取り、入居者層も確認しましょう。
● 利回りは物件ごとに検証する
市場レポートでは、賃貸利回りの目安を6〜8%としています。ただし、これは経費を差し引く前のグロス利回りです。特定の物件で保証される数字ではありません。
投資判断では、実際の入居率や管理状況を確認しましょう。登記や権利関係、外国人所有枠の残りも重要です。
詐欺対策の強化で問われる透明性
政府は、オンライン詐欺拠点への取り締まりを強めています。2026年4月には、オンライン詐欺対策法が施行されました。国際的な捜査協力も進められています。
2025年11月から翌年5月までに、400か所を超える拠点が摘発されました。25件のカジノライセンスも取り消されたと報告されています。
詐欺拠点の一部は、不動産と結びついています。カジノや大型複合施設が使われる例もあります。そのため、取り締まりは不動産市場にも影響します。
■ オンライン詐欺経済がもたらした歪み
違法な経済活動は、不動産市場にも歪みをもたらしました。主な問題として、次の点が挙げられます。
- 実需とかけ離れた賃料や地価
- 資金源を確認しにくいキャッシュフロー
- 事業実態が不透明なテナント
- 人権問題による国のイメージ低下
短期的には、施設の閉鎖によって空室が増える可能性があります。特定地域で、売却圧力が強まることも考えられます。
一方、中長期では透明性の高い物件が評価されるでしょう。資金源だけでなく、テナントの事業実態を確認できることも重要です。
■ 取り締まりの実効性が試される
オンライン詐欺への対応は、国家ガバナンスの試金石です。制度を整えるだけではなく、継続的に運用する必要があります。
犯罪組織の上層部まで捜査できるかも問われます。資金提供者や協力者を含めた対応が必要です。取り締まりの結果を公表する姿勢も欠かせません。
● 案件評価で確認したい項目
- 主要テナントの事業内容とライセンス
- 実質的支配者と資金源
- 開発事業者の過去案件と評判
- 訴訟や行政処分の有無
- 担保や差し押さえの有無
- 特定事業への収益依存度
不透明な案件への監視は、今後も強まる可能性があります。これは、日系企業にとって好材料にもなります。ただし、法執行が継続するかを見極めなければなりません。
外国人が押さえておくべき所有ルール
投資の前提として、外国人の所有ルールを確認しましょう。2026年時点の主なポイントは、次のとおりです。
■ 外国人が直接所有できる不動産
- 土地:外国人による直接所有は原則不可
- 区分所有建物:一定の専有部分は所有可能
- 対象階:地上階と地下階を除く部分
- 外国人所有枠:専有部分の総面積の70%まで
- 国境周辺:国境から30km以内では取得を制限
- 例外:経済特区や重要都市区域など
外国人にとって、所有方法が比較的明確なのはコンドミニアムです。ただし、正式な区分所有登記が必要です。この所有権は、一般にストラータタイトルと呼ばれます。
土地付き住宅やボレイでは、別の方法を検討する必要があります。長期賃借や、規制された信託などが候補になります。
ただし、これらは土地の直接所有とは異なります。仕組みごとに、保有できる権利やリスクも変わります。契約前に、現地法へ詳しい弁護士に相談しましょう。
■ 名義貸しには注意が必要
とくに注意したいのが、非公式なノミニーの利用です。ノミニーとは、いわゆる名義貸しを指します。
この方法では、資金を出した外国人に正式な所有権がありません。名義人との関係悪化や相続によって、権利を失うおそれがあります。
物件と権利を確認する
- 区分所有建物として登録されているか
- ストラータタイトルを発行できるか
- 外国人が所有できる階にあるか
- 外国人所有枠に空きがあるか
- 担保や差し押さえがないか
- 所有権をめぐる紛争がないか
売主と契約を確認する
- 売主や開発会社の法人登記
- 必要な開発・事業ライセンス
- 過去の開発実績と評判
- 契約書の正文となる言語
- 言語間で相違がある場合の優先順位
- 取得・保有・売却時の税金
- 為替変動を含む収支計画
専門家は買主側で選ぶ
すべての項目を自社で確認するのは簡単ではありません。現地の法律事務所や会計事務所と連携するのが現実的です。
その際は、専門家の独立性も確認しましょう。売主から紹介された専門家だけに頼らないことが大切です。買主側で選んだ専門家にも確認を依頼してください。
日本企業・個人投資家が検討すべきポイント
ここまでの内容を踏まえ、投資判断のポイントを3つに整理します。
■ 戦略1:セクターとエリアを絞る
- 検討候補:権利関係が明確なコンドミニアム
- 成長候補:インフラと連動する郊外住宅
- 慎重に検討:テナントが不透明な複合開発
- 注意が必要:カジノへの依存度が高い地域
中心部の物件でも、管理状況や入居率を確認しましょう。郊外物件では、インフラ計画の進捗と周辺需要が重要です。
土地を含む物件では、所有方法の確認も欠かせません。外国人が直接所有できるとは限らないためです。
■ 戦略2:収支を数値で確認する
値上がり益だけを前提にするのは危険です。家賃収入を中心に、保有中の収支を計算しましょう。価格が上がらない場合も想定しておく必要があります。
簡易シミュレーション
| 項目 | 前提の一例 |
|---|---|
| 購入価格 | 20万ドル |
| 年間家賃収入 | 1万4,000ドル |
| 表面利回り | 7% |
| 空室・未回収リスク | 家賃収入の10〜15% |
| 管理費・修繕費・税金 | 家賃収入の20〜25% |
| ネット利回り | おおむね4〜5% |
グロス利回りとネット利回りは異なります。空室や運営費を差し引くと、実際の利回りは数ポイント下がります。
上の試算には、購入時や売却時の諸費用を含めていません。融資金利や為替差損も考慮し、複数のシナリオを用意しましょう。
● 出口戦略も先に考える
購入前に、将来の買い手を想定することも重要です。外国人所有枠や築年数は、売却のしやすさに影響します。
管理状態が悪い物件では、買い手が限られる可能性があります。売却までの期間も、余裕を持って見積もりましょう。
■ 戦略3:ガバナンスを確認する
物件の収益性だけで、投資を判断するのは危険です。テナントや運営者、資金源の透明性も確認しましょう。
- テナントの事業内容を確認する
- 実質的支配者を確認する
- 必要なライセンスを確認する
- 人権上の問題がある案件を避ける
- 資金の出所と送金経路を確認する
- 契約や会計の記録を残す
- 透明性の高いパートナーを選ぶ
まとめ
- 住宅価格は、なお調整が続いている
- 市場の動きは物件ごとに異なる
- 低層住宅には底堅さがみられる
- コンドミニアムは個別の精査が必要
- 詐欺対策の継続性が今後の焦点となる
- 外国人は所有ルールの確認が必要
- 収益性とガバナンスの両方が重要
市場全体の値上がりだけに頼る投資は、難しくなっています。立地、収支、ガバナンスを軸に、物件ごとのリスクを見極めましょう。
カンボジアには、法制度や市場環境の不確実性も残ります。そのため、十分な調査と専門家への相談が欠かせません。
中長期の視点を持てる投資家には、検討の余地があります。ただし、短期的な値上がりより、持続的な収益性を重視すべきでしょう。
(参考:IQI Global、National Bank of Cambodia、Asialink、オンライン詐欺対策法、外国人区分所有法、カンボジア開発評議会(CDC))
