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不良債権9.6%と観光客半減|不動産市場のセクター別の戦略

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カンボジアの不動産市場を見るうえで、いま欠かせない数字が2つあります。1つは銀行の不良債権比率です。2026年6月時点で9.6%に達しました。2021年の2.4%から、4倍近い水準です。もう1つは観光客数です。2026年上半期の外国人観光客は175万人で、前年同期から約48%減りました。どちらも重い数字です。ただし、これは市場全体が沈むという話ではありません。銀行の自己資本は厚く、政府は中国人向けのビザ免除で観光の回復を急いでいます。つまり、セクターごとの差が開いていく局面です。そこで本記事では、金融と観光という2つの軸から、いま取るべきスタンスを整理します。

デベロッパー

不良債権の悪化が意味するもの

まず、金融面から見ていきます。格付会社ムーディーズによれば、カンボジアの銀行セクターの不良債権比率(NPL)は、2026年6月時点で9.6%に達しました。2025年末の8.3%、2021年の2.4%から大きく悪化しています。あわせて押さえたいのが、貸出の構成です。貸出残高の約22%が不動産向けで、民間部門への信用はGDPの約120%と、地域でも高い水準にあります。

報道でも、2025年のNPL比率が過去10年で最悪の水準(8.6%)になったと指摘されています。その背景として挙げられたのが、次の3点です。

  • 不動産セクターの成長率が、2025年に0.5%まで鈍化した
  • 平均物件価格が約3.6%下落し、長年の上昇トレンドが反転した
  • プノンペン周辺のボレイ(ゲーテッドタウン)約590案件のうち、133件が未完工、35件が延期と報告された

つまり、根本にあるのは過去の建設ブームで積み上がった債務と供給過剰です。それが、いま銀行の資産の健全性を圧迫しています。

■ 投資家が受け取るべき3つのシグナル

日本からカンボジアの不動産に投資する立場で読むと、これらの数字は次の3つのリスクを示しています。

  • 開発遅延・未完工リスク:未完工や延期の案件が増えているのは、デベロッパーの資金繰り悪化を示す。プレビルド(建設前販売)案件では、「完成しない」可能性を従来以上に織り込む必要がある
  • 担保価値の毀損:平均で3.6%下落したということは、エリアや物件によってはさらに大きな下落もあり得る。融資を受けた投資家にとっては、担保割れの圧力になる
  • 融資姿勢の引き締まり:NPLの悪化と不動産向けの高い比率により、銀行は新規融資に慎重にならざるを得ない。現地パートナーが借入に依存している場合、計画どおりに資金が集まらない可能性がある

もっとも、ムーディーズは同時に、銀行セクターの自己資本比率が高く、システム全体としてはまだ耐性があることも指摘しています。したがって現時点では、「金融危機」ではありません。むしろ、時間をかけて不良資産を処理していく調整局面と見るのが現実的です。

そして、こうした環境では一斉に総崩れにはなりません。場所、セグメント、デベロッパーごとに明暗が分かれます。ここが、冷静に機会を探す投資家にとっての入り口になります。

 

観光の減速とビザ政策

もう1つの軸が観光です。報道によれば、カンボジア政府は中国人向けのビザ免除の試行(2026年6月15日〜10月15日)を年末まで延長することを検討しています。さらに、他の有望市場へのビザ免除拡大も視野に入れています。

背景にあるのは、観光の落ち込みです。2026年上半期の外国人観光客数は175万人でした。2025年同期の336万人から、約47.9%の減少です。観光は農業、建設・不動産、製造輸出と並ぶ経済の柱の1つです。その回復は、ホテル・リゾート・商業施設の稼働率に直結します。つまり、観光依存型の不動産にとっては、ビザ政策が回復の鍵を握っている状況です。

■ ホテル・商業不動産で検討すべき3つの方向

  • 短期は守り、中期は再設計:直近1〜2年は稼働率の振れが大きい。返済スケジュールと運営コストを見直し、現金の流出を抑えることが優先だ。一方でビザ免除が定着すれば需要は戻る。客室構成やテナント構成の再設計が中期のテーマになる
  • マス観光からニッチへ:タイやベトナムとの競合を踏まえると、価格ではなく体験で勝負する領域が有利になりやすい。長期滞在、ウェルネス、リモートワーク向けなどだ
  • ローカル需要との組み合わせ:観光だけに依存せず、地元客向けの飲食やサービスを併設する。需要ショックへの耐性が上がる

観光セクターの回復は、不確実性が高い一方で、当たったときのリターンも大きい領域です。したがって、許容できる範囲でポートフォリオの一部に組み込む。この発想が現実的といえます。

 

具体的な投資戦略

■ レバレッジを抑え、キャッシュフローを軸に置く

前述のとおり、いまのリスクの大部分は信用バブルの後処理にあります。したがって、これから参入するなら次の原則を意識したいところです。

  • ローンへの依存度を下げ、自己資本の比率を高める
  • 期待キャッシュフローの堅さを優先する。住宅賃貸や、ローカル需要の強い商業施設などが候補になる
  • 出口価格に依存する短期転売ではなく、利回り重視の長期保有を基本に据える

たとえば、プノンペン中心部の高級コンドを転売するより、郊外の中間層向けボレイや、工業団地周辺のワーカー向け住宅のほうが読みやすくなります。実需に根ざした賃貸需要があるためです。

■ パートナー選定とデューデリジェンス

未完工や延期の案件が増えているいま、「誰と組むか」が成否の半分を決めるといっても過言ではありません。具体的には、次の3点を押さえます。

  • 過去プロジェクトの完工実績(遅延やトラブルの有無)
  • 銀行との関係と資金調達力。NPLが増えている局面でも、なお融資を受けられているか
  • コンプライアンス体制。不透明なスキームへの関与リスクがないか

あわせて、物件自体の法的チェックも欠かせません。所有権、担保設定の有無、用途規制など。カンボジアの法務に明るい専門家によるデューデリジェンスは必須と考えるべきです。

■ 中長期で追い風のあるセクター

リスクが高まるなかでも、構造的な追い風があるセクターは存在します。

セクター追い風の中身
中間層向け住宅経済成長と都市化は続いている。投機色の薄い中価格帯は、調整後も安定した需要が見込める
工業団地・物流関連東南アジアへの生産移転の流れのなかで、内陸・港湾近郊の工業団地や倉庫は製造業の直接投資と連動する
ニッチ観光・ヘルスケア連動医療ツーリズムやリタイアメント向けなど、量より質を重視した小規模案件は観光回復とともに注目され得る

これらはリスクを完全に避けられるものではありません。ただし、過去の投機的なコンドミニアム開発と比べれば、金融ショックへの耐性は高いと考えられます。

 

まとめ

  • 不動産向け融資の集中と価格調整により、不良債権比率は2026年6月時点で9.6%まで上昇した。ただし自己資本は厚く、危機ではなく調整局面と見るのが現実的だ
  • 観光客数は前年から約半減した。政府は中国人向けビザ免除の延長・拡大で巻き返しを図っている
  • この環境では一斉には下がらない。場所・セグメント・デベロッパーごとに明暗が分かれる

 

リスクと政策対応が、同時に進んでいる状況です。だからこそ、取るべきスタンスははっきりしています。金融・観光・デベロッパーという3つのリスクの構造を理解する。レバレッジを抑え、キャッシュフロー重視の案件に絞る。実績あるパートナーと、独立した専門家によるデューデリジェンスを徹底する。——見方を変えれば、いまは本質的な需要と健全なキャッシュフローを持つ案件だけが残る、ふるいの局面です。実際、こうした時期に選ばれた物件は、次のサイクルでも通用します。短期のノイズに振り回されず、数字と現場を丁寧に追う。それが結局、いちばん確実な進め方といえるでしょう。

 

(参考:Cambodia Investment Review、IntelliNews、Xinhua(china.org.cn)、Connect Consult)

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