ローン猶予終了と2027年CGT開始で何が変わるか
2026年9月、カンボジアの中央銀行が1つの判断を下しました。銀行とマイクロファイナンス機関から出ていた、ローン猶予措置の延長要請を拒否したのです。これは地味なニュースに見えます。しかし、不動産市場への影響は小さくありません。猶予が終われば、これまで「正常」に見えていたローンの実態が表に出てくるからです。さらに、もう1つの節目が控えています。不動産へのキャピタルゲイン課税(CGT)が、2027年1月に始まる予定であることです。つまり2026年は、与信と税制の両方で移行期にあたります。そこで本記事では、この2つの変化を整理し、どう向き合うべきかを考えます。

いま起きている2つの大きな変化
■ 変化1:ローン猶予の終了
2020年以降、カンボジアでは特例措置が続いてきました。パンデミックと不動産の調整を受けた対応です。銀行やマイクロファイナンス機関に、ローンの再編・猶予が認められてきました。ところが2026年9月、中央銀行(NBC)は業界団体からの延長要請を拒否しました。理由は明快です。特例を続ければ、実際には回収できないローンが「正常」に見えてしまう。それでは金融システム全体の健全性を損ないかねない、という判断です。
報道によれば、不良債権(NPL)比率も上昇しています。銀行セクターでは、2025年に8.3%でした。それが2026年上期には、9.6%まで上がっています。これは不動産ローンを含む与信の質が悪化しているサインです。特例を打ち切ることで、「どの借り手が本当に返済できるのか」を精査する段階に入ったといえます。不動産市場への直接的な影響は、主に次の3点です。
- 新規プロジェクト向け融資の審査が厳しくなり、立地や商品力の弱い案件から資金が付きにくくなる
- 既存の投資家やエンドユーザーも、返済能力とキャッシュフローを重視されるようになり、借り換えや増額が難しくなる
- 一部の高レバレッジ案件では値下げや売却の圧力が高まり、市場内で価格の二極化が進む可能性がある
■ 変化2:税制の転換点と2026年末までの猶予
税制も節目を迎えています。国際会計・税務ファームのレポートによれば、キャピタルゲイン税(CGT)は2025年から段階的に導入されました。不動産以外の投資資産や株式の譲渡には、すでに20%のCGTが適用されています。一方、土地・建物などの不動産への適用は再延期され、現時点では2027年1月1日開始の予定です。同レポートでは、次のような優遇も示されています。
- 一次取得の自宅や農地などは、CGTの対象外とされている
- 一定額までの初めての住宅購入に対する印紙税の免除が、2026年末まで延長されている
- 2026年は「バブルでも暴落でもなく、価格が▲3〜+2%程度で推移するリセットの年」との見方が示されている
つまり2026年は、本格的な不動産CGTがまだ始まっておらず、価格も大きく動かない「もみ合い」の年です。しかも初めての自宅取得には税優遇が続いています。静かに仕込む時期、とも捉えられます。一方で2027年以降は、売却益への税負担が明確になります。出口の設計が、いまよりシビアになることが予想されます。
なぜ「選別の年」なのか
■ 与信姿勢が変わると何が起こるか
猶予の延長が拒否されたことで、金融機関は借り手の質を以前より厳しく見るようになります。その結果、次のような形で市場に表れてくるでしょう。
- 高レバレッジのデベロッパーや投機的なプロジェクトへの資金供給が絞られ、工事の遅延・中止リスクが高い案件があぶり出される
- 実需や賃貸需要の裏付けが弱いエリアでは、完成在庫の売れ残りや空室が長期化しやすくなる
- 逆に、テナントが付きやすい好立地や、工業・物流系の安定需要がある物件には、依然として資金が流入する
特に厳しいのが観光関連です。2026年1〜7月のインバウンド観光客数は、前年同期比で約46%減と報じられています。影響が大きいのは、ホテルやサービスアパートメントです。観光依存度の高い不動産では、収益回復が遅れます。その遅れが、ローン返済に重くのしかかる可能性があります。
■ 相対的に強いセクター、慎重に見るべきセクター
| セクター | 見方 |
|---|---|
| プノンペン都心のプライム・コンドミニアム | BKK1やトンレバサックなど中心部の良質な物件は、今後12か月で0〜+4%程度の価格上昇が見込まれる。想定賃料利回りはおおよそ6.5〜9%とされ、ホーチミン市(約3%)やバンコク(約6%)と比べても優位性がある |
| 工業・物流系 | 特別経済区や工業団地向けの土地・倉庫需要は、輸出製造業の拡大とインフラ投資に支えられる。2026〜2031年で最も高い成長が期待されている |
| 国内実需向けのマスマーケット住宅(ボレイ等) | 初めての自宅購入に対する印紙税免除が2026年末まで延長されており、一次取得者向けの需要は比較的底堅い |
| 沿岸都市のリゾート・投機案件 | 2018〜2019年の過熱サイクルからの供給過剰と高い空室率が続く。現地事情に精通した投資家以外は慎重な判断が推奨される |
つまり、市場全体としては横ばいから小幅な調整でも、セクターや案件ごとのパフォーマンス差は広がりやすい環境です。
取るべき3つの戦略
■ 戦略1:レバレッジとキャッシュフローを最優先に設計する
与信が厳しくなる局面では、基準を変える必要があります。「どれだけ借りられるか」ではなく、「無理なく返せる水準か」です。具体的には次のとおりです。
- 自己資金の比率を高め、月々のローン返済額が想定賃料の60〜70%以内に収まるようにする
- 空室と賃料下落を織り込んだストレスシナリオで、キャッシュフローを試算する
- ドル建ての収益と円建ての資金という為替リスクも含め、複数通貨ベースで損益分岐点を確認する
■ 戦略2:2027年の課税開始を前提に出口を決めておく
不動産へのCGT適用は、現時点で2027年1月1日開始の予定です。ここで見落としやすい点があります。2026年末までに取得した物件でも、売却が2027年以降であればCGTの対象になり得るということです。したがって、新規投資を検討する際は次の3通りで整理します。
- 短期売却(2〜3年以内)を前提にするなら、2027年以降の税負担を組み込んだ利回り計算を行う
- 長期保有(5年以上)を前提に、賃料収入を主軸としたインカム投資として割り切る
- 自己利用や一次住宅に近いケースでは、自宅・家族利用としての価値も含めて総合的に判断する
なお、税務の詳細は現地の専門家に確認することが必須です。制度は変更される可能性があります。
■ 戦略3:不動産単体ではなく、産業とインフラの連動で見る
直近の動きを俯瞰すると、政府は工業化、インフラ整備、農産加工の高度化に力を入れています。数億ドル規模の物流ハブや特別経済区のプロジェクトも進行中です。注目すべきは、この産業投資と不動産の結節点です。
- 新空港や高速道路の開通にともない、物流拠点・工業団地に近いエリアの土地・倉庫需要が増える
- 輸出製造業が集積すれば、周辺の従業員向け住宅や商業施設の需要も中長期で底堅くなる
- 一方で、観光依存度の高いエリアは、訪問者数の減少を強く受けやすい
投資の前には、「利回り何%」という数字だけを見ないことです。その物件が、どの産業クラスターに紐づいているのか。ここを確認することが重要になります。
まとめ
- ローン猶予の終了により、与信は「量」から「質」重視へ移る。プロジェクトと投資家の選別が進む
- 不動産へのCGTは2027年からの本格適用が予定される。2026年は税制上の猶予期間であり、価格のリセット期でもある
- 都心のプライムコンド、工業・物流系、一次取得者向け住宅。セクターごとの強弱を見極めることがリターンの鍵になる
2026年のカンボジア不動産は、かつてのような「何を買っても上がる」局面ではありません。——ただし、それは悪い話ばかりではないといえます。信用リスクと税制の方向が、いま見えつつあるからです。実際、何が起きるか分からない市場より、何が起きるか分かっている市場のほうが設計はしやすくなります。レバレッジの管理、税務の戦略、産業クラスターとの連動。この3つの視点を持てば、リスクを抑えながら機会を取りにいけます。具体的な案件やストラクチャーを進める際は、専門家と組んでください。現地の弁護士、税理士、不動産会社です。そのうえで、全体の設計から見直してみましょう。
