カンポンスプー州の物流・工業団地|地区別に見る売り出し価格
カンボジアで、不動産投資に関わる2つの動きが続けて表に出ました。まず2026年8月31日、カンポンスプー州で132ヘクタールの物流・工業団地が着工しています。投資額は3億ドルです。さらに9月28日には、カンボジアと日本による鉄道分野の高官級協議が初めて開かれ、都市交通システムの実現可能性調査が議題に入りました。
こうしたニュースを見たとき、投資家が知りたいのは「では、そのエリアはいくらなのか」という点でしょう。そこで本記事では、2つの案件の中身を整理したうえで、開発が動いているカンポンスプー州の土地が実際にいくらで売りに出ているのかを、地区別の数字で確認します。あわせて、まだ公表されていない情報も明示します。

カンポンスプー州で何が着工したのか
■ 132ヘクタールの物流・工業団地
8月31日に着工したのは「Cambodia SuperPort」です。場所はカンポンスプー州チバーモン市のサンポフ村で、面積は約132ヘクタール、投資額は推定3億ドルとされています。
事業主体は合弁で、シンガポールのYCH Groupとカンボジアの複合企業Sear Brothers Investmentsが組んでいます。起工式はフン・マネット首相の代理として、フン・マニー副首相(公務大臣)が主宰しました。政府が後押しする案件だと見てよいでしょう。
施設の中身は、物流ハブと工業団地を一体化したものです。具体的には、先進的な倉庫、通関などの税関サービス、輸送施設、商品の集中管理機能を備えます。加えて、複数の輸送手段をつなぐ結節点としても設計されています。
1点だけ紛らわしい部分があります。正式名称は「Phnom Penh Logistics and Industrial Complex」ですが、所在地はプノンペンではなくカンポンスプー州です。資料を読むときは注意してください。
■ 同じ州にもう1つ、518ヘクタールの経済特区
同じ州で進む大型開発は、これだけではありません。2026年3月11日には、フン・マネット首相が政令に署名し、カナディア経済特区が承認されています。
こちらの面積は518ヘクタールで、国道51号線沿いのシャムロン・トン郡とサマキ・ムニ・チェイ郡、合わせて10の村にまたがります。事業者はカナディア・グループです。要するに、1つの州で半年のあいだに2件の大型案件が動いたことになります。
では、その土地はいくらで出ているのか
ここからが本題です。カンボジアの不動産ポータルRealestate.com.khで、カンポンスプー州の土地の売り出し状況を確認しました。以下は2026年10月12日時点の数字です。
■ 州全体では中央値24万7,500ドル
州全体では131件が売りに出ています。売り出し価格の中央値は24万7,500ドル、1平方メートルあたりの中央値は200ドルでした。典型的な価格帯は5万4,920ドルから201万8,103ドルで、かなり広く散らばっています。
■ 地区によって水準はまるで違う
同じ州でも、地区ごとの差は小さくありません。分布は次のとおりです。
| 地区 | 掲載件数 | 売り出し価格の中央値 |
|---|---|---|
| プナム・スルオチ郡 | 15件 | 63万5,000ドル |
| サムラオン・トン郡(カナディア経済特区) | 31件 | 56万ドル |
| アオラル郡 | 11件 | 55万ドル |
| チバーモン市(Cambodia SuperPort) | 18件 | 41万ドル |
| コン・ピセイ郡 | 15件 | 16万ドル |
| トポン郡 | 5件 | 11万5,000ドル |
| オドンク郡 | 28件 | 10万7,500ドル |
| バセット郡 | 8件 | 8万ドル |
注目したいのは、開発が動いている2つの地区です。まずカナディア経済特区があるサムラオン・トン郡は、31件で中央値56万ドル、1平方メートルあたりの中央値は170ドルでした。典型的な価格帯は10万8,800ドルから440万4,000ドルです。
次に、SuperPortが着工したチバーモン市は18件で、中央値は41万ドル、典型的な価格帯は6万4,000ドルから202万8,725ドルでした。なお同市の1平方メートル単価は、ポータル上の中央値と個別物件の表示に食い違いがあったため、ここでは扱いません。
■ この数字の読み方
ただし、これらはあくまで売り出し価格であって、成約価格ではありません。売り手の希望が反映された数字だという前提で見てください。
加えて、土地は接道条件や権利の種類によって単価が大きく振れます。同じサムラオン・トン郡のなかでも、10万ドル台から440万ドル台まで開きがありました。したがって中央値は「だいたいこのあたり」という目安にすぎません。個別の物件は、現地で1件ずつ確認する必要があります。
鉄道のほうは、まだ数字が出ていない
■ 協議で決まったのは検討項目まで
9月28日の協議で議長を務めたのは、公共事業運輸省の常任国務秘書官であるコイ・ソダニー閣下です。日本側からは国土交通省の代表団に加えて、JICA(国際協力機構)とエンジニアリング会社の日本工営が参加しました。
議題は既存路線の復旧の優先順位づけ、都市交通システムの実現可能性調査、鉄道関連法案の見直し、技術基準の策定、安全基準の向上、管理体制の見直しの6点でした。線路の話にとどまらず、制度をつくる段階に入っていると言えます。
ただし、投資判断に必要な情報はまだ出ていません。具体的には、都市交通システムのルート、駅の位置、事業費と財源、着工や開業の時期です。この4つが未公表である以上、鉄道を理由に特定の場所を選ぶ根拠はありません。
■ 検討自体は2023年から続いている
実は、この分野の検討は今回が初めてではありません。2023年1月の報道によれば、当時の公共事業運輸省の常任国務秘書官であったトッ・チャンコサル閣下が、日本工営に対してプノンペンでの鉄道の実現可能性調査を要請しています。JICAも、それ以前に自動運転式列車システム(AGT)を検討していました。
議論自体は数年前から続いているわけです。それでもなお、2026年9月の協議の議題は「実現可能性調査」でした。今回の協議を「決定」と読むのは、やはり早すぎます。
投資判断の3つの論点
■ 論点1:個人が入れる価格帯はどこか
132ヘクタールや518ヘクタールという規模は、個人で扱えるものではありません。一方で州全体の売り出し中央値は24万7,500ドルですから、個人が検討できる価格帯の土地も実際に出回っています。安いほうではバセット郡が8万ドル、オドンク郡が10万7,500ドルでした。
そのうえで、開発地への近さと価格は必ずしも連動していません。現に、中央値が最も高いのはプナム・スルオチ郡(63万5,000ドル)で、2つの開発地が位置する郡ではありませんでした。価格は開発計画だけで決まるわけではないということです。
■ 論点2:何が公表されたら動くか
SuperPortについては、場所・面積・投資額・事業主体がすでに公表されています。しかしAKPの報道では、雇用創出に寄与するとされているものの、具体的な雇用人数は示されていません。完成や稼働の時期についても記載がない状況です。
雇用人数と稼働時期が出れば、周辺の賃貸需要を見積もる材料になります。鉄道も同じで、ルートと駅の位置が公表されて初めて沿線を検討できます。追うべきはこの4点だと整理できます。
■ 論点3:権利関係は計画とは別に確認する
最後に、これが最も重要です。開発計画があることと、その土地の権利が確かであることは、まったく別の問題です。カンボジアでは土地の権利証書に種類があり、硬性証書と軟性証書では安全性が異なります。
どれだけ立地が魅力的に見えても、権利関係の確認を省くべきではありません。現地の弁護士と不動産会社に依頼して、登記の状況を1件ずつ確かめてください。
まとめ
- 2026年8月31日、カンポンスプー州チバーモン市で132ヘクタール・3億ドルの物流工業団地「Cambodia SuperPort」が着工した
- 同州では2026年3月11日にも、518ヘクタールのカナディア経済特区が政令で承認されている
- カンポンスプー州の土地は131件が売りに出ている。売り出し価格の中央値は24万7,500ドル。1平方メートルあたり200ドル(2026年10月12日時点)
- 開発地のあるサムラオン・トン郡は中央値56万ドル。チバーモン市は41万ドル。ただし同じ郡でも10万ドル台から440万ドル台まで開きがある
- 鉄道はルート・駅の位置・事業費・時期のいずれも未公表。SuperPortも雇用人数と稼働時期は出ていない
■ 結局、いま何をすべきか
インフラのニュースは、大きな数字とともに流れてきます。132ヘクタール、518ヘクタール、3億ドル。——ただし、その数字と個人の投資判断のあいだには距離があります。いま確認できるのは、売り出し価格の分布までです。
だからこそ、順番が大切になります。まず地区ごとの相場感を持つこと。次に、雇用人数と稼働時期、鉄道のルートと駅の位置が公表されるのを待つこと。そのうえで権利関係を確認してから判断すること。この順で進めれば、計画の話だけに振り回されずに済みます。
実際に物件を検討する段階になったら、現地の不動産会社と弁護士に相談してください。売り出し価格と成約価格の差や、個別の権利関係は、現地でしか確認できないためです。
(参考:Construction & Property News、AKP、Construction & Property News、Realestate.com.kh)
